北海道北部上川管内に位置する,士別市を中心とした地域で観察される地質は,中生代から第四紀まで,2億年以上にも渡り,大変に多くの種類の地層や岩石が観察されます(→層序表を見る).狭い地域の中に,そのように時代的にも岩相的にも多くの種類のものが観察されることは,非常にめずらしいことなのです.これは,この地域が過去に大きな環境の変化を経験してきたことを意味しています.特にプレートテクトニクスで説明される中生代の海洋層序の分布は注目されます.

1.中生代

当地域には中生代の地質区分のうち,次のものが存在しています.

地 質 区 分 地 層 名 ・ 地 質 体 名 形 成 環 境 等
空知−エゾ帯 幌加内オフィオライト(空知層群を含む) マントル・海洋地殻
エゾ累層群 前弧海盆
イドンナップ帯 東和コンプレックス・武徳緑色岩体・弥栄川緑色岩体 海溝付加体(海山等)
刈分川層 海溝充填タービダイト
日  高  帯 日高累層群(下川オフィオライト・上士別コンプレックスを含む) 海洋プレート・海溝付加体(泥岩等)
神居古潭変成帯 神居古潭変成岩類 海溝深部の底付け地質体(高圧変成)

 
(1)空知−エゾ帯の地質
幌加内オフィオライト
 
幌加内オフィオライトは,士別市温根別から幌加内町北部にかけて見られ,かんらん岩・輝岩・蛇紋岩・斑れい岩・角閃岩・緑色岩・凝灰岩・チャートなどで構成される一連のユニットです.このオフィオライトは中生代ジュラ紀に,南洋の海底で大規模な火成活動が起き,「空知海台」と呼ばれる大きなふくらみができて,それが海洋プレートとともに北上し,白亜紀初期に海溝付近にくっついてしまったためにつくられたものといわれています.上部マントル部分も露出していますが,これがもともと海台とセットになっていたものかどうかは不明です.大変珍しく,ナゾの多い地質体です.
蝦夷累層群
 蝦夷累層群は北海道で最も有名な地層といえます.白亜紀前期から末期にかけて,古ユーラシア大陸の東側の海底(前弧海盆)に,島弧から流れこんできた砕屑物(砂・泥・礫など)が堆積してできた地層です.当地域では士別市温根別に広く分布し,温根別北線では,上部蝦夷層群の泥岩よりアンモナイトやイノセラムスなどの古生物化石が発見されています.
神居古潭変成岩類
 神居古潭変成岩類は幌加内町で観察され,蛇紋岩に取り囲まれるように分布しています。士別市では蛇紋岩は観察されますが、神居古潭変成岩は観察されません.神居古潭変成岩類は,もともとは海溝の付加体であったものですが,これが海溝の地下深いところで高圧の変成作用を受けたものなのです.結晶片岩という縞模様の入った硬い岩石が中心となっており,庭石としても珍重されます.高圧変成岩はそのでき方や上昇の仕組みなど,大変不思議なことが多く,大勢の研究者が研究を続けています.そんなわけで,Kamuikotanの名は世界的に知られているのです.
(2)イドンナップ帯の地質
 日高帯と空知−エゾ帯の境界付近では,道内各地で多くの「メランジ」が見られる地質体が観察され,これらの分布する地域は「イドンナップ帯」と呼ばれています.イドンナップ帯は,空知海台の付加の後の,白亜紀前期の付加体であるとされ,形成の前期は主に海山が衝突して付加し,また海溝の陸側斜面が崩壊して堆積していました.形成の後期は砂や泥を中心とした付加体と「タービダイト」であり,海溝付近で様々な地層がミックスされたものです.こういうものを「コンプレックス(複合岩体)」と呼ぶことがあります.和寒町北部や剣淵町東部で断片的に観察することができ,深海底起源の枕状溶岩やチャート,海山起源の発泡した緑色岩,凝灰岩,石灰岩などが一つの露頭で観察されます.
(3)日高帯の地質

 日高帯の日高累層群は,士別市東部,朝日町,剣淵町東部,和寒町東部・下川町などに広く観察され,黒色頁岩と緑色岩類を主として,チャートを挟む地層です.まれに石灰岩も挟まれています.これらは海洋プレート上に堆積した半遠洋性の堆積物と海洋プレートの玄武岩であり,その後海溝付近で付加体を形成したものです.深海底の堆積物であるチャートがあまり多く存在せず,また,MORB(中央海嶺玄武岩)タイプの緑色岩(玄武岩)が頁岩中に多量に見られることからも,日高累層群は比較的大陸の近くに海嶺(クラ−太平洋海嶺)が存在していた場所で堆積したものであると考えられています.付加体の形成開始は白亜紀後期,形成終了は古第三紀前期といわれています(当地域では古第三紀の地層は未発見).

 

2.新生代古第三紀

 当地域においては古第三紀の地層は発見されておらず,当時の環境としては隆起する陸地であったものと思われます.北海道は石炭を多産し,その主な形成時代は古第三紀です.その頃,大規模な森林平原が北海道中央部に広がっていたのでしょう.道内各地の神居古潭帯が上昇を続けていた時期でもあり,当地域も隆起し,厚い地層は形成されていなかったものと考えらます.


3.新生代新第三紀

 新第三紀の地層は,この近辺では1500万年ほど前の海の地層と,1300万〜1000万年前の陸の地層があります.古第三紀の長い間,陸化していた当地域ですが,1500万年前頃の海域の拡大(海水準の上昇)によって,士別周辺は海の入り江(古名寄湾)となりました.当時,下川町から滝上町にかけて存在していた「ウエンシリ地塁」という山地から,多量の砕屑物が湾内に流れ込み,奥士別層(朝日町)・弥栄川層(剣淵町)を形成しました.これらの地層からは,貝化石が発見されています.士別の西側〜幌加内にかけては,築別層・古丹別層と呼ばれ,同じく貝化石を多産します.
 その後1300万〜1000万年前ころには,活発な安山岩質の火山活動が起こり,浅海での火山活動による堆積物や陸上での火山活動による溶岩や土石流堆積物などによる地層(美深層)が形成されました.田畑の切り通しなどによく見られる,「石を含んだ赤い土」が美深層です.

 約1000万年前頃,北海道には東方からの千島弧をのせたプレートの衝突により,日高山脈は急激に押し上げられました.当地域においては,ウエンシリ地塁が再び急上昇し,そこからの砕屑物が天塩川堆積盆地に流れ込み,厚い河川成の地層を堆積させました(川西層・多寄層).


4.新生代第四紀

 最後の氷河時代のウルム氷期を迎え,3万〜1万年前には寒冷化がとくに進み,海水面は現在よりも140〜80mも低下していました.2万年〜1万5000年前は最寒期であり,マツを中心としたタイガ(寒帯林)が広がっていました.その後,現在の北海道に近い針広混合林となり,これらが泥炭層を形成しました.この泥炭層は和寒町,剣淵町,士別市,風連町,名寄市の低地に連続して分布しています.また,このころ中国大陸からの大規模な「黄砂」がこの盆地に到達し,風成の粘土層を形成しました.これが剣淵粘土です.
 
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