第 12 回

 このコーナーでは,士別周辺の露頭をピックアップして,その様子を紹介して,その見どころやエピソードをお伝えします.いろいろな場所が登場しますので,皆さんも地質調査をしているつもりで楽しんで下さい.以前のこのコーナーに登場したものを見たい人は,このページの下の方から入って見て下さい.

 士別市温根別ダムの蛇紋岩

 このコーナー第12弾は,士別市温根別町の温根別ダムの蛇紋岩を紹介します.これまで色々な露頭を探検してきましたが,実はこの温根別ダム付近の地質は,このあたりでは最も有名な場所なのです.それは「幌加内オフィオライト」という,世界的にも珍しいものが観察されるからなんです.2億年前から1億年前にかけて形成されたマントルから海洋地殻にいたるまでの一連の地層です.詳しくはホームページを見ていただきたいと思いますが,1970年代後半から注目を集め,多くの人達が研究を行いました.温根別ダムは士別市から幌加内方面へ抜ける国道を西進し,温根別市街地を通り抜けて直進するとたどり着けます.冬期間や崖崩れがあった場合はゲートが閉まってしまいますので行けません.

 ダムの入り口付近です.大きな露頭が連続しています.このあたりに出ている岩石はほとんどが蛇紋岩です.表面が赤茶けていて,割ってみると内部は真っ黒なものが多いです.一般的に蛇紋岩は緑系のものが多いのですが,温根別のものは黒色が多いというのが特徴です.同じ蛇紋岩でも様々な顔つきをしていて,それだけでも結構楽しめますよ.
 近づいてみました.金網の中に,崩れかかった蛇紋岩が見えます.蛇紋岩というのは割れやすい岩石で,このように道路沿いに出ている場合は崖崩れなどの危険が伴います.実際この道もしょっちゅう閉鎖されています.蛇紋岩帯にトンネルを建設するときは大変らしいですよ.
 ダムの下の方に見られる露頭です.しっかりとした蛇紋岩がありました.これだけしっかりした蛇紋岩は大変に珍しいものです.ところでこの蛇紋岩という岩石,実はもともと地下数十キロという深いところにある,マントルだったものです.マントル上部はかんらん岩からできていますが,かんらん岩が水と反応してつくられたのがこの蛇紋岩です.「そんな深いところから,はるばるようこそ」って感じですね.
 上の写真の対岸です.蛇紋岩だらけですね.ここの川はカワエビやカジカなんかがいて,夏はちょっと楽しめます.でも,蛇紋岩って石は川の中では結構ぬるぬるしていて,転んじゃうかも.私も何度もこけましたね.なんでヌルヌルしているのかというと,蛇紋岩は表面が風化して粘土鉱物になっていることと,割れやすいので川の中ではすぐに丸くなってしまうことが原因です.
 また上の露頭に戻りました.ハンマーを置いてあるところのちょっと上の部分の,色の薄い岩石は閃緑岩という岩石です.その上下は蛇紋岩です.閃緑岩が挟まっているんですね.これは1億年ぐらい前に,蛇紋岩の中に溶岩が入り込んできたもので,溶岩が冷えて閃緑岩になりました.その時の熱で,閃緑岩の周囲の蛇紋岩は変質しています.
 これは蛇紋岩を薄くして,偏光顕微鏡で見たものです.薄片作成と写真撮影は博物館特別学芸員の石井彰洋さんです.なんだかすごい写真ですね.普通岩石の薄片写真を撮ると,内部に鉱物がキラキラと見えるものなんですが,蛇紋岩はちがいます.この網目模様が蛇紋岩の特徴で,キラキラした鉱物はほとんどありません.

 さて,蛇紋岩はいかがでしたか?昔,このあたりで銘石ブームが起こった頃,蛇紋岩は「蛇紋石」と呼ばれ,磨かれた蛇紋岩は貴重な趣のある岩石として人気があったようです.現在もアートとして蛇紋岩を素材とした彫刻などを行っておられるかたがいるようですね.私もこの岩石はとても好きで,美しいと思います.士別駅にも展示されていますね.温根別ダムには露頭も多く,蛇紋岩意外にも様々な岩石が観察されます.

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過去の露頭探検隊を見る
  第1回 剣淵町刈分川の刈分川層
  第2回 和寒町東和の東和コンプレックス
  第3回 士別市温根別のマムシ沢
  第4回 剣淵町弥栄川の弥栄川層
  第5回 上士別・朝日町の石灰岩
  第6回 士別市温根別のエゾ累層群
  第7回 士別市上士別の花崗岩
  第8回 剣淵町弥栄川の弥栄川緑色岩体(その1)
  第9回 剣淵町弥栄川の弥栄川緑色岩体(その2)
 第10回 上士別の石灰山(その2)
 第11回 朝日町岩尾内湖の頁岩層