第 16 回

 このコーナーでは,士別周辺の露頭をピックアップして,その様子を紹介して,その見どころやエピソードをお伝えします.いろいろな場所が登場しますので,皆さんも地質調査をしているつもりで楽しんで下さい.以前のこのコーナーに登場したものを見たい人は,このページの下の方から入って見て下さい.

 士別市朝日のケナシ川の似峡層

 このコーナーの第16弾は,士別市朝日のケナシ川の似峡層(にさまそう)です.前回紹介した美深層の堆積が始まる前の1500万年前頃,このあたりは浅い海でした.第四回で紹介した剣淵町の弥栄川層もその頃の地層です.朝日には似峡層と奥士別層という2つの地層がそれにあたります.士別から岩尾内湖に向かって東進し,朝日町市街地を抜けて二股を左に行くとすぐに大きな露頭に行きあたります.これが似峡層です.

 道路沿いにこのような大きな露頭が見られます.荒い砂と礫(石コロ)からできた地層です.礫が多いので,最初はてっきり河川成の地層だと思ってしまいました.堆積物を見て,その堆積した昔の環境を調べる,というのが学生時代からの私の研究テーマでもあるわけですが,なかなか簡単にはいかない...
 砂の中にレンズ状に礫が挟まれています.人の頭よりも大きな礫も含まれていますね.これはどうも海底谷の堆積物のようですよ! 陸を流れる川は砕屑物を水流で運び,海底に堆積させますが,激しい洪水などの時は普段よりも遠く深いところまで砕屑物を運びます.海底を川が流れるわけです.すると,陸上と同じように海底に谷をつくります.そこにはグチャグチャになった堆積物がみられるのです.
 地層が複雑で,水流がどの方向だったのか,この露頭でははっきりわかりませんでした.今度よく調べてみます.でも,一般的には東から西に流れていた,と考えるのが妥当でしょう.東方のウェンシリ岳が砕屑物の供給地と言われています.礫の種類は日高累層群の緑色岩,黒色頁岩,チャート,新生代の花崗岩等です.この地層は朝日町ではあちこちに見られますが,ここから西のほうでは剣淵町に1カ所あり,さらに西では士別峠まで見られません.点在しているんですね.地層が薄いことからも,日本海から朝日町にかけて短期間存在した,細長い内湾に堆積した地層であると想像されています.

 朝日の似峡層でした.1500万年前の内湾(奥士別湾入部といいます)にあった海底谷堆積物です.昔の地形を想像してみましょう.わずかの期間の海水準の上昇によって,このあたりが海になっていたのです.第四回でも述べましたが,これは地球温暖化現象によるものと考えられています.さて,似峡層を紹介しましたので,次回は同じ朝日の奥士別層を紹介します.ここで大きな発見が!!!

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過去の露頭探検隊を見る
  第1回 剣淵町刈分川の刈分川層
  第2回 和寒町東和の東和コンプレックス
  第3回 士別市温根別のマムシ沢
  第4回 剣淵町弥栄川の弥栄川層
  第5回 上士別・朝日町の石灰岩
  第6回 士別市温根別のエゾ累層群
  第7回 士別市上士別の花崗岩
  第8回 剣淵町弥栄川の弥栄川緑色岩体(その1)
  第9回 剣淵町弥栄川の弥栄川緑色岩体(その2)
 第10回 上士別の石灰山(その2)
 第11回 朝日町岩尾内湖の頁岩層
 第12回 士別市温根別ダムの蛇紋岩
 第13回 士別市温根別九線川の下部蝦夷層群
 第14回 士別市温根別ダムの下部蝦夷層群
 第15回 和寒町東町の凝灰岩