第 22 回

 このコーナーでは,士別周辺の露頭をピックアップして,その様子を紹介して,その見どころやエピソードをお伝えします.いろいろな場所が登場しますので,皆さんも地質調査をしているつもりで楽しんで下さい.以前のこのコーナーに登場したものを見たい人は,このページの下の方から入って見て下さい.

 士別市温根別中線川の中部蝦夷層群(その2)

 このコーナーの第22弾は,前回に引き続き士別市温根別の中線川に見られる中部エゾ層群の礫岩層です.前回はナゾばかりでしたが,今回はこの地層の正体に迫りましょう.中線川は,温根別のトヨタテストコースを左手に見て,幌加内に向かう国道を右側には行った道にあります.突き当たりに溜め池がありますが,このあたりにその地層はあります

 礫岩層といっても,実際はこのように礫岩と砂岩がサンドイッチになっています.陸上での洪水の時に,礫と砂が一緒に海底に流れ込み(混濁流),重たい礫が先に堆積して,その後で砂がその上に堆積するのでこのようになります.礫が川底でゴロゴロ流れた場合は,下の地層を大きく削って,境界線はガタガタになってしまいますしまいますが,写真の通り礫の地層の下は,それほどガタガタにはなっていません(少しはなってますがね...).やはり川の地層ではないんですね.
 これは礫岩層と砂岩層の境界部です.写真ではわかりにくいですが,礫のサイズがだんだん上に行くほど小さくなり,砂に変わっていきます.水中で重力によって堆積するとこのようになります.このような構造を「上方細粒化(グレーディング)」といい,水中堆積物の特徴です.陸上で洪水が起きたときに,普段は届かないような海底まで礫がドドッと流れ込み,このような地層をつくったのでしょう.

 さて,この地層,白亜紀にあった「島弧(今の日本のようなもの)」から海底にもたらされた土砂や礫によってつくられたものと考えられています.前回登場した花崗岩の礫は,島弧で発生した火山活動によるもので,急峻な地形から河川が海底に流れ込んでいたものと考えられます.エゾ層群が堆積していた白亜紀に,この島弧が急激に発達し,礫が流れ込んだのでしょう.礫の種類は花崗岩だけではなく,陸地の火山の代表的な岩石である「流紋岩」や「安山岩」もたくさん見られます.かなり島弧が大きくなっていたということでしょう.とはいうものの,突然このような地層がつくられたことに対しては,多くの学者が様々な説を提案しており,詳しいことはまだまだわからないのです.ここは今後研究が必要な貴重な露頭なんですね.

TOP PAGEに戻る


過去の露頭探検隊を見る
  第1回 剣淵町刈分川の刈分川層
  第2回 和寒町東和の東和コンプレックス
  第3回 士別市温根別のマムシ沢
  第4回 剣淵町弥栄川の弥栄川層
  第5回 上士別・朝日町の石灰岩
  第6回 士別市温根別のエゾ累層群
  第7回 士別市上士別の花崗岩
  第8回 剣淵町弥栄川の弥栄川緑色岩体(その1)
  第9回 剣淵町弥栄川の弥栄川緑色岩体(その2)
 第10回 上士別の石灰山(その2)
 第11回 朝日町岩尾内湖の頁岩層
 第12回 士別市温根別ダムの蛇紋岩
 第13回 士別市温根別九線川の下部蝦夷層群
 第14回 士別市温根別ダムの下部蝦夷層群
 第15回 和寒町東町の凝灰岩
 第16回 朝日町ケナシ川の似峡層
 第17回 朝日町八線の貝化石
 第18回 朝日町八線の貝化石(その2)
 第19回 朝日町八線の貝化石(その3)
 第20回 朝日町糸魚小学校の所蔵資料
 第21回 士別市温根別中線川の中部蝦夷層群(その1)