第 44 回
士別市温根別五線川のチャート

 このコーナーでは,士別周辺の露頭をピックアップして,その様子を紹介して,その見どころやエピソードをお伝えします.いろいろな場所が登場しますので,皆さんも地質調査をしているつもりで楽しんで下さい.以前のこのコーナーに登場したものを見たい人は,このページの下の方から入って見て下さい.

 今回は,士別市温根別五線川の下部エゾ層群のチャート層を紹介します。温根別ダムのダムサイトを渡るとすぐに二股があります。ここを真っ直ぐ行くとマムシ沢ですが,左に行くと五線川林道です。この林道は幌加内オフィオライトという,中生代の海洋地殻の断面が見られる地質学的に大変価値のある林道です。ここのところ落石の関係でなかなか入る事ができませんが・・・。
 これがチャートの露頭です。赤茶けた露頭が草の間にポツンと見えるだけの,実に地味な存在です。しかし,これが多くの情報を与えてくれる注目の露頭なんです。
 幌加内オフィオライトは,1億年以上前の古太平洋上の「海台」が海溝に付加したものです。その深い海溝には,海のプランクトンの死骸がゆっくりと降り積もっていました。そうです。「マリンスノー」ですね。何度か話に出てきましたが,4000mよりも深い海底では炭酸カルシウムでできた殻は溶けてしまって,珪酸(ガラスや石英の成分)でできた殻だけが残ります。「放散虫」というプランクトンの殻は珪酸でできているので,深海底には放散虫の殻ばかりが堆積しています。これが固まったものがチャートと呼ばれるものです。
 ちょっと近づきました。表面は赤茶けていますが,割ってみると中は緑色です。風化が激しくて,ハンマーでたたくとボロボロと崩れてきて,大きな塊で取り出すことができません。
 実はここのチャートは,放散虫による珪酸成分のほかに,火山灰による珪酸成分(火山ガラス)が含まれています。エゾ累層群という地層群は,海溝よりも大陸側にあった「島弧」の火山から砕屑物が供給されてできた地層です。ほとんどが砂や泥ですが,火山灰の地層(凝灰岩層)もけっこうあります。ここのチャートはそうした凝灰質のもので,厳密にはチャートではなく「珪質泥岩」と呼ぶことが多いのです。
 これはチャートの薄片写真です。作製と撮影は例によって特別学芸員の石井さんです。白くて丸いものがたくさん写っていますね。これが全部放散虫の化石です。とても小さいので肉眼では全く見えません。岩石自体は風化が進んでいますが,放散虫は珪酸でできているため風化せずに残っています。1億年以上たっていても,放散虫はしっかり残るんですね。感心します。

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■過去の露頭探検隊を見る
第 1回 剣淵町刈分川の刈分川層
第 2回 和寒町東和の東和コンプレックス
第 3回 士別市温根別のマムシ沢
第 4回 剣淵町弥栄川の弥栄川層
第 5回 上士別・朝日町の石灰岩
第 6回 士別市温根別のエゾ累層群
第 7回 士別市上士別の花崗岩
第 8回 剣淵町弥栄川の弥栄川緑色岩体(その1)
第 9回 剣淵町弥栄川の弥栄川緑色岩体(その2)
第10回 上士別の石灰山(その2)
第11回 朝日町岩尾内湖の頁岩層
第12回 士別市温根別ダムの蛇紋岩
第13回 士別市温根別九線川の下部蝦夷層群
第14回 士別市温根別ダムの下部蝦夷層群
第15回 和寒町東町の凝灰岩
第16回 朝日町ケナシ川の似峡層
第17回 朝日町八線の貝化石
第18回 朝日町八線の貝化石(その2)
第19回 朝日町八線の貝化石(その3)
第20回 朝日町糸魚小学校の所蔵資料
第21回 士別市温根別中線川の中部蝦夷層群(その1)
第22回 士別市温根別中線川の中部蝦夷層群(その2)
第23回 和寒町東丘の美深層
第24回 剣淵町12線の多寄層(その1)
第25回 剣淵町12線の多寄層(その2)
第26回 士別市武徳の緑色岩
第27回 士別市温根別の角閃岩(その1)
第28回 士別市温根別の角閃岩(その2)
第29回 朝日町北線の奥士別層(その1)
第30回 朝日町北線の奥士別層(その2)
第31回 風連町東生の下川層群
第32回 比布町のエゾ累層群(その1)
第33回 比布町のエゾ累層群(その2)
第34回 比布町北5線の枕状溶岩
第35回 士別市九十九山の川西層
第36回 朝日町岩尾内の柵留林道の斑れい岩(その1)
第37回 朝日町岩尾内の柵留林道の斑れい岩(その2)
第38回 朝日町岩尾内の柵留林道の斑れい岩(その3)
第39回 朝日町岩尾内の柵留林道
第40回 美深町小車の貝化石(その1)
第41回 美深町小車の貝化石(その2)
第42回 剣淵町西原の美深層(その1)
第43回 剣淵町西原の美深層(その2)