今回は,士別市温根別五線川の下部エゾ層群のチャート層を紹介します。温根別ダムのダムサイトを渡るとすぐに二股があります。ここを真っ直ぐ行くとマムシ沢ですが,左に行くと五線川林道です。この林道は幌加内オフィオライトという,中生代の海洋地殻の断面が見られる地質学的に大変価値のある林道です。ここのところ落石の関係でなかなか入る事ができませんが・・・。 |
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これがチャートの露頭です。赤茶けた露頭が草の間にポツンと見えるだけの,実に地味な存在です。しかし,これが多くの情報を与えてくれる注目の露頭なんです。
幌加内オフィオライトは,1億年以上前の古太平洋上の「海台」が海溝に付加したものです。その深い海溝には,海のプランクトンの死骸がゆっくりと降り積もっていました。そうです。「マリンスノー」ですね。何度か話に出てきましたが,4000mよりも深い海底では炭酸カルシウムでできた殻は溶けてしまって,珪酸(ガラスや石英の成分)でできた殻だけが残ります。「放散虫」というプランクトンの殻は珪酸でできているので,深海底には放散虫の殻ばかりが堆積しています。これが固まったものがチャートと呼ばれるものです。 |
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ちょっと近づきました。表面は赤茶けていますが,割ってみると中は緑色です。風化が激しくて,ハンマーでたたくとボロボロと崩れてきて,大きな塊で取り出すことができません。
実はここのチャートは,放散虫による珪酸成分のほかに,火山灰による珪酸成分(火山ガラス)が含まれています。エゾ累層群という地層群は,海溝よりも大陸側にあった「島弧」の火山から砕屑物が供給されてできた地層です。ほとんどが砂や泥ですが,火山灰の地層(凝灰岩層)もけっこうあります。ここのチャートはそうした凝灰質のもので,厳密にはチャートではなく「珪質泥岩」と呼ぶことが多いのです。 |
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これはチャートの薄片写真です。作製と撮影は例によって特別学芸員の石井さんです。白くて丸いものがたくさん写っていますね。これが全部放散虫の化石です。とても小さいので肉眼では全く見えません。岩石自体は風化が進んでいますが,放散虫は珪酸でできているため風化せずに残っています。1億年以上たっていても,放散虫はしっかり残るんですね。感心します。 |